働く場所に制約が少ない大学教員や研究者にとって、快適なワークスペースは三者三様でしょう。一人になれる個人研究室や自宅の書斎が適した人もいれば、気分転換もかねてカフェで作業をする人も多いのではないでしょうか。とはいえ、飲食店での長時間利用は憚られることもあるでしょう。
作業スペースとしてコワーキングスペースも有用です。昼間も夜も、平日も土日も使える場所…ランチタイム等混雑する飲食店で肩身の狭い思いをする必要もない。ですが、ビジネスマン向けのコワーキングスペースでは、蔵書や資料とともに作業する研究者にとって不満な点もあるはずです。自分のPCを利用し、蔵書があり、資料保管もできて、仕事がしやすい空間。そこには空いていれば自分一人になれるかもしれないけど、同じような立場の人が来て同じ空間に居ることでメリハリがつく空間。また、自分が取り組んでいる論文とは直接には関係しないが、気分転換も兼ねて読書をしたりできる空間。そこがカフェで自分好みの珈琲が出てきたら嬉しいけど…珈琲の好みは様々で、自分でお気に入りのドリンクを持参した方がいいかもしれない。当施設は、「カフェ」ではない形で、研究者向けに最適化されたワークスペースを提供します。
大学をめぐる環境は変化し、研究者の作業環境も変わってきています。個人研究室の縮小、図書館における蔵書の限界、かつてのような書斎や書庫を有する大きな戸建てに住むいかにもな大学教授は減少し、蔵書スペースや作業スペースの確保に苦慮する研究者も多いのではないでしょうか。大学でも、任期付き教員の増加、研究室制・講座制の廃止などにより、大学教員間でのフォーマル・インフォーマルな会話も減ってきているのではないかと思います。その一方で、学祭化も進み、なんらかのコネによって多様な研究者が連携し、組織や分野を超えたコラボレーションも増えています。大学からの研究費に代わり、科研費や助成金による研究プロジェクトが、人文社会科学系でも中心となりました。そんな変化がありながら、研究者が働く場所は、大学の研究室と、そこに飽きたら自宅やカフェという感じで昔から変わりません。その変化に対応した1つの試みとして本施設をデザインしました。